畦塗りと担い手
「非効率」な農家の仕事
芽が出た直後の稲の苗 |
畦塗りがやっと終わりました。よその家の田んぼにはもう稲が植わっています。5月に入って荒起こし、畦草刈、荒代掻き。その合間にトウモロコシの植え付け。もちろんリンゴの摘花、摘果も。これから植代掻き、田植となります。
畦塗りは水田作業の最重労働です。我が家の田んぼは6反全て畦を塗ります。他に請け負っている4反は圃場整備済みの田んぼで畦塗りはしません。4反で角が8つしかありません。ところが我が家の田んぼは6反で角が36あります。三角や変形の田んぼも含め9枚です。その畦を土を上げ、たたいて塗ります。「百姓は昔からこねぇやって畦を塗ってきたんじゃろうのう」と塗り上げた畦を見ながら独り言を言いました。
まさに政府が最も「ダメ」だという「非効率」な田んぼです。大規模化などとてもできません。
今年は集落の中で、5反ほど稲の作付けができなかった水田が出てきました。何とかつくる人を探してほしいといわれていましたが、できませんでした。我が家の田んぼと同じような状況です。畦を塗らねばなりません。重労働は敬遠されます。私も何とかしたいと思いましたが、現状では手が回らないことは確実です。おまけに米価は不作でも下落して、60㌔1万円時代がささやかれています。
17日に04年度農業白書(「食料・農業・農村の動向」)が閣議了承されました。食料自給率(カロリーベース)の目標達成を2015年まで5年先送りすることや、農業生産を大規模経営に集中することを強調しています。一方で消費者が求める安全な農産物の安定供給のために「国産の強みを活かした生産体制」も強調しています。そして、事例を挙げています。
安全安心な農産物は誰が作る
はて、「消費者が求める安全な農産物」は一体誰が作っているんでしょうか。事例に挙がっているものも直売市と学校給食の連携、商店街への産地直売所など、決して「大規模経営」「担い手」だけではありません。逆に、それに属さない小さい農家や地域が自分達で地域の条件に合わせて築いたものがほとんどです。盛んに「地産地消」を説いていますが、地産地消を進めてきたのも、小さい農家や地域の自主的な活動です。政府が進めてきた、大規模化、法人化では決してありません。
「非効率」といって真っ先に切りすて、完全に息の根を止めようとしている零細農家こそが「消費者が求める安全な農産物」の生産者ではないのでしょうか。
苦しむ大規模農家
大規模農家も苦しんでいます。大規模になるほど農産物価格の下落の影響をまともに受けるからです。02年の農業所得は、5年前に比べ稲作で26%、露地野菜18%、施設野菜26%減少しています。
我が家では、月末、友人達=消費者を呼んで田植を行います。10数年間続けている行事です。最初に来た子たちは、ずいぶんうまくなりました。よちよち歩きだった子も社会人、高校生になりました。うちの米でこんなに大きくなったんです。やめられません。続けたいと思う人が担い手であり、消費者の命を支え、農村の活力の源です。規模の大小で差別する農政では、食料も農業も農村にも明るい明日は見えないでしょう。
「さてっと、今度はどこかの商店街で産直しようかな」と考える「非効率な」農家です。